アトム法律事務所・岡野武志 弁護士が語る“開業の裏話~今後の展望”とは
by LEGAL JOB MAGAZINE 編集部
編集部
こんにちは。弁護士専門の転職エージェント「リーガルジョブボード」です。
本記事では、昨年9月に開催した「司法試験 合格祝賀会」にて、特別ゲストとしてご出演いただいた「アトム法律事務所・岡野武志 弁護士」のお話をお届けいたします。
具体的には、
- 弁護士になってから開業するまでの経緯
- 事務所立ち上げ時の裏話や戦略
- 今後の展望や弁護士業界について
など、幅広くお話しいただきました。
当イベントにご参加いただいた皆様はもちろん、現役弁護士の方や司法修習生の方にも、ぜひご覧いただきたい内容となっています。
また、記事内で「令和5年度 司法試験 合格祝賀会」のご案内も掲載しております。ぜひご確認ください。
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この記事の目次
アトム法律事務所・岡野武志 弁護士の紹介
高校卒業後、2年間のアメリカ生活を経て、2008年に旧司法試験合格(61期)。
弁護士として活躍する傍ら、2019年よりYouTube活動を開始。法律問題や時事ネタを中心に、ユーモアを交えて分かりやすく解説する動画が話題に。 YouTubeチャンネルの登録者数は151万人を超える(2023年9月時点)。
弁護士登録の当日に「アトム法律事務所」を設立し、2010年に弁護士法人化を果たす。交通事故・刑事事件といった都市型トラブルに取り組み、成長を続けている(グループ全国12拠点) 。
【レポート】岡野弁護士が語る開業の裏話~今後の展望
弁護士になった理由や事務所立ち上げの経緯、経営戦略まで、幅広くお話しいただきました。
終盤には、弁護士や司法修習生の皆様にぜひご覧いただきたいメッセージもございます。ぜひ最後までご覧ください!
※リーガルジョブボードの田口(以下:田口)との対談形式でお届けいたします。
高卒~フリーターを経て“弁護士”を目指す
しかし、周りの友人たちが大学を卒業して就職していくのを見て、自分もずっとフラフラしてはいられないと思ったんです。
将来を思うと手に職をつけたいと考えていた時に、司法試験を見つけました。
田口:ではその後、司法試験に見事合格し、弁護士になられたんですね。
岡野先生:2006年に無事、司法試験に合格することができ、司法修習を経て弁護士となりました。ただ、私が受験生だった頃は旧司法試験の時代で、ロースクールの話もほとんどありませんでした。
当時は司法試験といったら「人生一発逆転!」みたいな感じで。私のようなフリーターや、「大学では真面目にやってなかったけど、ここで本腰入れて勉強するか…」みたいな人も多かったんですよ(笑)
旧司法試験は受験回数の制限がないので、本当にたくさん浪人生がいて、公立図書館の自習室や予備校の自習室にたまって勉強していました。浪人して長く勉強している人でも、前年より試験成績が下がることがザラにあって。みんな四苦八苦しながら勉強していましたね…。
田口:今はSNSやLINEで受験生のコミュニティがあったりしますが、当時は受験生同士の情報交換もなかなか難しそうですね。
岡野先生:多分、みんな2ちゃんねるに溜まっていたんじゃないですかね(笑)
合格してからは、司法修習もあるので同期との距離はグッと縮まりました。すぐに仲良くなりましたし、就活の情報なども共有し合っていました。
今でも(弁護士になってから)10年や20年といった節目で、同期や修習時代の教官と集まる機会がありますね。
修習生時代の交通事故が開業のヒントに
被疑者として検察庁に呼ばれることになってしまって…。
田口:そんな出来事があったんですね…!
岡野先生:しかも、修習の第3クールは検察庁での研修が予定されていました。
被疑者のまま検察庁で修習を受けるのはマズいということになり、巻きで(検察庁に)呼び出されたりしました。担当の検察官も、私が修習生だったので少し戸惑っていましたね。
司法修習に支障をきたす可能性があるのではないかと考え、この時はさすがに焦りました。
田口:立場的にも、タイミング的にも、それはかなり焦りますね。
岡野先生:そこで、修習でお世話になっていた裁判官に事故について相談したのですが、「しっかり通報して対応したなら問題ないんじゃないか?」という回答しかもらえず…。
弁護士の先輩は刑事事件が専門外でしたし、ネットは調べても薄い情報しかなく、求めている情報にたどり着けなかったのですが、検察庁の教官に聞いてやっと欲しい情報を得ることができました。この時、司法修習生という「法曹以外で最も法曹に近しい存在」であっても、日常的に起こり得る事件・事故という事象に関して、欲しい情報になかなか出合えない状況があると学びました。
そこで、事件・事故に関する正しい・求められている情報をネットで発信したら、反響が得られるのではないかと思ったんです。
田口:そのような経験も、刑事事件・事故を専門にするきっかけとなったわけですね。
岡野先生:はい。他にも色々と調べていくうち、刑事系の事務所に需要があるのではないかと考えました。
例えば、裁判所は民事部・刑事部に分かれていて、どちらも同じくらいの規模感です。しかし、民事系の事務所はたくさんあるのに、刑事系がとても少ない。当時の統計では、刑事事件の約20%に私選弁護人が付くにもかかわらずです。ネットでアメリカの情報を収集したところ、アメリカには刑事系の事務所が一定数あることも分かりました。
なので、私はしっかりとマーケット調査をしたというより、自身の経験や自力で得た情報をもとに、事務所を開業しましたね。
修習後に即独立&開業に至った経緯
先ほど話した内容も含めて考え、自分で事務所を立ち上げようと決意しました。自分ひとりが食べていくくらいは問題なく稼げそうだったので。
田口:事務所を立ち上げて開業することに、不安はありませんでしたか?
岡野先生:18歳から10年ほどフリーターを経験していたので、そこまで不安はありませんでした。
もし大学に行っていたら、独立・開業して社会に放たれることに不安を覚えたかもしれません。ただ、私は高校卒業後ずっと野良のような感じだったので。
むしろ、税理士などにも登録できる文系トップクラスの資格を持っているから、まあ大丈夫だろうという感じでしたね。
事務所の立ち上げ時、拡大は全く考えていなかった
具体的には、ホームページを作成して積極的に活用したり、広告やマーケティングにも注力したりしましたね。
田口:なるほど。そうした戦略もあって、問い合わせ件数が増えていったんですね。
岡野先生:はい。私が開業したのは2008年ですが、2000年頃まで弁護士業界では広告が禁止されていたんです。タウンページなどの広告すら禁止されていました。
広告解禁後もしばらくは、「弁護士が広告?そこまでは落ちぶれへん」みたいな風潮があったように思います。過払い金のCMなどで徐々に流れは変わっていきましたが、私が開業した当時は、ホームページなどでコンテンツをしっかりと打ち出せば、たくさん問い合わせをいただくことができました。
実は、独立・開業したばかりの頃は、事務所の拡大などは全然考えていなかったんですが、それらの問い合わせに対応していくうちに、自然と事務所が大きくなっていきました。
田口:ちなみに今の問い合わせ件数はどれくらいでしょうか?
岡野先生:新規の問い合わせは、月に数千件~5,000件ちょっとくらいです。
電話相談だけの方もいますが、一定の割合の方は実際に法律相談に繋がり、そこから一定の割合で事件を受任しています。
刑事事件は儲からない?弁護士費用設定の戦略とは
田口:ココ壱番屋のカレー、ですか?
岡野先生:私選の刑事弁護は青天井で、著名人などの事件は弁護士費用がすごい金額になると言われます。しかし、当事務所でお引き受けするのは、一般の方の事件がほとんどです。
“ココ壱番屋のカレー”がどんな意味かというと、ランチはできたらワンコインで済ませたいけど、ココ壱番屋に行くとトッピングを載せたいし、1,000円を超えるくらいになってしまう。あの感じです。世の中には、もっと安い400円くらいで買えるお弁当もあります。
当事務所は400円のお弁当までの価格ではないけれど、数千円の高級ランチでもない。まさに、“ココ壱番屋のカレー”のような料金設定にしています。あとは受任件数が多いので、そこで利益を担保しています。
コロナ禍で自身の“役員報酬をゼロ”に
しかし、私は若い頃に渡米していたので海外に友人が多く、中国などの友人から入るコロナ関連の情報から、早くから危うさを感じていました。
田口:なるほど…。早い段階で危機感をお持ちだったのですね。
岡野先生:私はウェブ系が得意なこともあり、コロナ関連のデータを収集・分析して、「これはまずい」と確信していました。
刑事事件や交通事故は人が動くことで発生します。繁華街やデパートから、軒並み人が消えていっているのを見て、コロナ禍の続き方次第では事務所の経営に影響があると考えました。グループ全体で100人ほどのスタッフを抱える経営者として、正しい判断を下したいと思ったんです。
労働問題に取り組むと分かりますが、リストラには4つの要件があり、解雇回避の措置を取ったか争点になります。社員を解雇する前に、社長がクルーザーを手放すのが先ではないか、というような話ですね。私は、自らの役員報酬をゼロにするのが最も正しい判断だと考えました。
田口:なるほど、そうだったのですね。
岡野先生:結果的に、この対策は考えすぎでした。コロナの影響で少し売上が下がったものの、すぐに回復して順調に成長を続けています。過去最高益を記録することもできました!
今後の展望や目標とは?
田口:なるほど。具体的にはどのようなことでしょうか?
岡野先生:企業顧問などの相談を受けることもありますが、分野が広がると動きが鈍くなってしまうので、あえてお断りしています。
一方で、SEOを意識したウェブマーケティングや、SNSを活用した認知獲得は、これまで同様に外せないですね。
また、弁護士業は株式会社などとは違うので、事務所をこれ以上大きくするつもりは全くありません。ただ、事務所の成長を止めてしまえば、所員の給料が上げづらくなってしまいます。所員のみんなの給料がちゃんと上がって、右肩上がりの未来が想像できるような成長を続けていきたいです。
田口:岡野先生の著書『人生逆転最強メソッド』で、目標を明確にするのが重要という話がありましたが、今後の目標をお教えいただけますでしょうか?
岡野先生:優れた弁護士を育て、世の中に輩出していきたいです。
(弁護士になって・事務所を設立して)15年目を迎えた中堅として、法律の知識を広めること、優れた弁護士を育てて世の中に輩出することが、私ができる社会的な役割だと思っています。
当事務所にマッチする人材を積極的に採用し、多くの案件を経験してもらうことで、弁護士としての経験・スキルを高められるようにしていきたいです。
自分だけに見えるものの先に“チャンス”がある
今後、成果を上げたい、チャンスをものにしたいと思うのであれば、自分なりの物事の見え方・捉え方を大事にしていって欲しいですね。
田口:なるほど。その人だからこそ見える・気づけることに、ヒントがあるということですね。
岡野先生:はい。私自身、修習後にすぐ開業したからこそ、刑事事件専門の事務所でやっていくという選択ができたと思っています。(弁護士として経験を積んで)企業顧問などをやっていたら、刑事事件専門にはしていなかったかもしれません。
私が事務所を立ち上げた当時、民事事件で一定の案件が確保できている事務所は、刑事事件に力を入れない傾向にありました。だからこそ、ホームページや広告など、ネットを駆使することで他事務所との差別化が図りやすかったんですよね。
自分の立ち位置から見えるものを大切に、人・場所・タイミングなどを掛け合わせて、チャンスを探って欲しいです。今の私から見た弁護士のマーケットと、参加されている皆さんから見た弁護士のマーケットは全然違うと思うので。
2023年9月25日に、岡野先生の新著『おとな六法』が出版されます。
岡野先生からは、「一般の方が法律を身近に感じられるように、これまでの弁護士経験や動画配信の内容をまとめました。この本をきっかけに、困ったときに弁護士に相談しようと思い出してくれる人や、将来法曹を目指す人がいたら嬉しいです」とコメントをいただいております。ぜひご覧ください。
※本記事でご紹介した講演内容は、一部抜粋となります。
※リーガルジョブボードでは、令和5年度も「司法試験 合格祝賀会」を開催いたします。詳細はこの後のご案内をご覧ください。
【2023年12月開催】令和5年度 司法試験 合格祝賀会
2023年も合格祝賀会の開催が決定いたしました。オフラインで開催予定です。
詳細やお申し込みに関する情報は、以下の記事でご確認いただけます。
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