【ブラック司法書士事務所】司法書士500名から聞いた実態と、よくある誤解を解説
by LEGAL JOB MAGAZINE 編集部 岸田
リーガルジョブマガジン運営者
司法書⼠業界はサービス残業が常態化している
この業界はパワハラ、モラハラが当たり前
司法書⼠法に違反する⾏為を目にすることがある
こういった言葉を耳にすることがよくあります。SNS上でも同様の投稿が見受けられます。
合格率3%の狭き門をかいくぐりパワハラモラハラの洗礼を受け,ブラック環境を生き残ってようやく一人前のスタートラインに立つことを許される,それが司法書士…。
— 粒粒餡子 (@tsubutsububeans) August 22, 2021
私もそう思っていましたが、
友人が勤める事務所、その事務所の司法書士、補助者、その周りの人たちからはこの業界はパワハラ当たり前でブラックな世界ですと、これまで勤務していた事務所での体験を語っているようです。パワハラ受けてきた司法書士が開業してこんな有り様。ダメだこりゃですね。— めょうじょう (@jpnmyojyo) March 3, 2022
本記事を読んでいただく前に、まず我々の「ブラック司法書士事務所」に対する考えを述べさせてください。
それは「若⼿を思いやり、厳しく指導してくれる事務所」と「ブラック事務所」は全く別の話だ、ということです。サービス残業、パワハラ・モラハラ、その他司法書⼠法に違反する⾏為など、これらは⾔うまでもなく「違法行為」です。
「違法な⾏為を黙認しながらも事務所運営をしている事務所」こそがブラック事務所に当たります。このあたりの線引きが不明確なままに「ブラック事務所」という⾔葉が⼀⼈歩きをして、健全な経営をしている事務所が⾵評被害に合うケースも散⾒されます。
私たちリーガルジョブボードは、「毎年厳しい試験を乗り越えて司法書⼠となる合格者のみなさんが、こうした違法な事務所によくわからないまま就職してしまい、⽬の前の違法な実態を業界全体の慣習と捉え、失望してしまうケースを少なくしていくべきだ」と考えています。同時に「健全な運営をしているにもかかわらず、ブラック事務所と噂され、⻑年⾵評被害に苦しむ事務所も少なくしていくべきだ」とも考えています。
こうした悲しいケースは多くの場合「情報が不⾜しているために起こって」います。
そこで本記事では、今まで延べ500⼈以上の司法書⼠の就職・転職を⽀援し、業界を知り尽くす弊社のエージェント「稲田」へインタビューを⾏い、
- ブラック事務所の定義
- ブラック事務所の実態
- ブラック事務所の避け方
これらの情報を公開いたします。
- これから司法書士を目指す方
- 司法書士に合格し、就職活動に向かわれる方
- 転職を考えている司法書士の方
- 健全な経営をしつつも風評被害に遭われている事務所の皆様方
こうした方に少しでもお役に立てる記事になれば幸いです。
この記事の目次
そもそも「ブラック事務所」の定義とは?
– 岸田:その前にまず前提を揃えたいのですが、どういう事務所を「ブラック事務所」と定義しますか?
ただ「ハードワークな職場」「仕事がきつい事務所」をブラックとみなす方も一定数いらっしゃると思うのですが、ハードワーク=ブラックではないと私は考えています。
– 稲田:そうですね。冒頭でもお伝えしましたが、例えば「厳しく指導してくれる事務所」はブラックかと言われれば、そうではないですから。
– 岸田:そう思います。「ブラック事務所」という言葉が一人歩きしないよう、ここでちゃんと定義しておきたいですね。
– 稲田:はい。ここで言う「ブラック事務所」とは、大きく分けて3つに分類されます。
- 労働基準法を違反している
- ハラスメント問題を起こしている
- コンプライアンス違反をしている
これらに該当する事務所を「ブラック」と定義づけています。
– 岸田:理解しました。これら3つに沿って、「ブラックな事務所の実態」や「ブラック事務所の避け方」をおうかがいしていこうと思います。が、その前に。
「司法書士業界はブラック事務所が多い」とささやかれる理由
– 岸田:なるほど。労働環境が整備されていない職場の割合が多かったと。
– 稲田:また、「独立」も起因していますね。
「資格を取ってある程度実務を経験したら独立する」というのが司法書士の王道キャリアパスだったので、「勤務司法書士の時間はすべて修行期間」と割り切る司法書士が多かったんです。
– 岸田:理解できました。そういった背景が奇しくも「ブラックな環境を肯定する口実」になってしまった側面も、あったかもしれませんね。
– 岸田:また、雇用側からしたら「どんなに労働者を大切に扱っても、どうせすぐ独立して辞められてしまう」みたいな「諦め」のような感情も、もしかしたらあったかもしれません。
– 稲田:あったと思います。
あと「司法書士の業務の特性」も要因の一つでしょう。
– 岸田:司法書士業務の特性とは?
– 稲田:多くの司法書士の方々は、金融機関や不動産会社からお仕事を「いただいている」という真摯なスタンスを持たれています。だから、指定された期日までに完了するのが難しい案件が来ても断れないような実情がある。
– 岸田:例えば「その案件を受注したら確実にハードワークを強いられる」としても、受けなければいけない。みたいな状況でしょうか?
– 稲田:そうです。これは結構、司法書士の先生方から聞きますよ。
「次の仕事につながるかもしれない」「断ったら他の司法書士に仕事が回ってしまうかもしれない」という不安からですね。
– 岸田:案件の工程における司法書士の位置づけが、膨大な残業時間に繋がっている側面もあると。
– 稲田:まさにそうです。
– 岸田:司法書士の独立キャリアや業務の特性、そして「すぐに辞められる恐れがある雇用側」の立場。これらの要素を踏まえると、司法書士業界のハードワークは仕方がないとも言えますよね。
– 稲田:はい。半ば強制的にハードな労働環境になってしまう側面があり、事務所側は決してそのような環境を推奨しているわけではないのです。
– 岸田:司法書士業界の現状に疑問を抱き、「関係者全員がもっと働きやすい環境を作りたい」と願う事務所さまは、きっとたくさん存在しているだろうとも思いました。
– 稲田:たくさんいらっしゃると思います。
合格者に配られる「ブラック司法書士事務所リスト」について
「ブラック司法書士事務所リスト」なるものが毎年、合格者の間で流通しているという噂を聞いたことがあるのですが、本当ですか?
– 岸田:本当だったんですか…
– 稲田:残念ながら本当なんです。私も実際に見たことがあります。
毎年、合格者に「ブラック司法書士事務所リスト」なる情報が出回るようになっている。
– 岸田:どのような経緯で配られているのでしょうか。
– 稲田:A4くらいの紙に、司法書士事務所の名前がずらっとまとまっているリストが存在するんです。おそらく歴代の司法書士合格者が作成して、代々受け継がれているのだと思います。
– 岸田:驚きです。そもそも誰がそういった資料を用意しているのでしょう…
– 稲田:たぶんですけど、予備校の先輩や歴代の合格者が、予備校内で渡しているんじゃないかと思います。想像ですが…
– 岸田:実際、それは参考になるんですか?
– 稲田:参考になる情報もある一方で、噂レベルだったり、誇張されているような内容も入っています。
– 岸田:本当はブラック事務所じゃないのに、掲載されている司法書士事務所も存在しているかもしれない、ということですね。
– 稲田:そうですし、逆に「ブラックだけどリストに載っていない事務所」も存在していると思います。
– 岸田:そのリストが常に最新の情報に更新されているとは限らないですし、これから司法書士になる方々は、その情報をあまり鵜呑みにしない方が良さそうですね。
– 稲田:鵜呑みにしない方が良いです。自分にとって働きやすい事務所なのかどうかは、あくまで自分自身の目や耳で確認すべきと思います。
– 稲田:こういうリストで風評被害に遭っている事務所さまもたくさんいらっしゃると思いますので、正しい情報を届けられるよう、私自身も努力しようと考えています。
【ブラック事務所リストについて】
どれほどの信憑性があるのかは正直不明なので、あくまで「参考情報の一つ」として捉える程度に留めておきましょう。
実際にあった「ブラック体験談」
ブラック体験談①月間の残業時間が「200時間」
– 岸田:まずは、労基法でよく上がる話題「残業時間」に関するお話を伺いたいです。
– 稲田:分かりました。
月間の残業時間が「200時間オーバー」という司法書士の方とお話させていただいたことがあります。
【実際にあったブラックな実態①】
月間の残業時間が、200時間オーバー。
– 岸田:残業「だけ」で200時間ですか?
– 稲田:残業時間だけです。定時の時間は含んでいません。
平日は大体終電まで働いて、土日もフルで働いていたようです。あと、事務所に泊まったりとか。
【残業時間について】
- 36協定を結んだ上で、企業が命じることができる時間外労働(残業)は、一般労働者の場合、原則的には月45時間・年360時間
- 2~6ヶ月平均で80時間超え、または1ヶ月100時間超えの時間外・休日労働が過労死ラインと言われている
– 岸田:本当にやることがあって残業しているのか、「とりあえず職場に残るものだから」というような雰囲気があって残っているのか、どちらが多いんですか?
– 稲田:基本的に前者ではあるんですが、事務所によっては「みなし残業分は残らないといけない」「帰りにくい雰囲気がある」といったようなケースもあるようです。
– 岸田:先ほどのお話でもありましたが、「司法書士業務の特性上、どうしても残業しないと終わらない」側面はあると思います。一方で、不当に残らないといけないような空気は広まってほしくないとも思います。
– 稲田:ただ、最近の司法書士業界では、働き方改革のような意識が徐々に広まっていますよ。
– 岸田:それは嬉しいです!例えばどんな働き方改革がありますか?
– 稲田:例えば「21時になったら強制的にPCがシャットダウンされる」事務所さまとか。絶対に従業員を帰そうとルール化しているようです。
就業規則を整えたり、残業代をきっちりと払ったりする事務所さまは間違いなく増えています。とはいえこれらは、そもそもとして守らなければならないことなんですけど…
【注目】
残業時間の削減に取り組む事務所は増えてきている!
– 岸田:ずっと暗いお話が続いていたので、嬉しい情報を聞けてよかったです。
ちなみに先ほどの「月間残業時間が200時間の方」は、残業代は払われていたのでしょうか?
– 稲田:払われていないです。
【実際にあったブラックな実態②】
月間の残業時間が、200時間オーバー。(サービス残業)
– 岸田:私だったらとても耐えられる気がしません。
そこで限界がきて、稲田さんに転職相談をすることになったわけですか。
– 稲田:はい。ただここで少し、驚いたことがありまして。
その方の転職理由が「残業時間」ではなく「スキルアップ」だったんですよね。
– 岸田:「残業時間を減らしたい」ではなく?
– 稲田:もちろん残業時間を抑えたいお気持ちもあったと思いますが、そこは本音ベースではなかった。あくまで「スキルアップできる環境に移りたい」とのことでした。
– 岸田:「司法書士は残業に耐えるのが普通だ」という価値観を持たれていたのでしょうか?
– 稲田:恒常化してしまっていたのだと思います。「司法書士は長時間労働が当たり前」という認識で勤め続け、いつの間にかその価値観を疑うことすらなくなってしまったのかもしれません。
– 稲田:またこれは別の方のお話なのですが、あまりの残業時間に耐えかねて事務所の代表先生に「労基法を違反しています」と指摘した司法書士の方がいらっしゃいましたね。
– 岸田:勇気ある行動ですね。結果、どうなりましたか?
– 稲田:「これも修行だから。」と、代表の先生に突っぱねられたようです。
【実際にあったブラックな実態③】
「長時間労働に耐えるのは修行の一環である」と言われる。
「残業が多い=悪」ではない
– 稲田:ただ、ここで一つ言いたいことがありまして。
– 岸田:なんでしょう?
– 稲田:ただ残業が多いというだけで、その事務所を「ブラック」と定義づけるのは間違っていると思います。会社や組織・業界が成長していくためには、どうしても過酷な時間や仕事と向き合う必要があると私は考えています。
– 岸田:司法書士業界に限った話ではないですが、「決められた時間に決まった作業だけして成長する」ことはないですからね。
– 稲田:はい。綺麗事を並べているだけでは、前進できない部分はどうしても存在すると思っています。あらゆる司法書士事務所さまが、現状を改善するために努力されていることをどうか忘れないでいただきたいです。
実際にあったブラック体験談②異なる労働条件の提示
– 岸田:残業時間の他に、労基法違反に関連する実態やエピソードはありますか?
– 稲田:労働条件面でのトラブルですね。「面接で聞いたときの労働条件」と、入職後に提示された労働条件が異なっていてトラブルになるというケースは、結構聞きます。
– 岸田:「労働条件」とは、年収のことですか?
– 稲田:年収とか、労働時間とか、福利厚生とか、待遇とか。雇用する上で定めるべき項目が複数あるのですが、それらすべてが労働条件に該当します。
– 岸田:なるほど。
例えば面接時は「週休二日」と提示されたものの、入職後に「週休一日」と後出しされるようなケースですか?
– 稲田:そうです。入職者はそれを受け入れざるを得ない状況になり、トラブルに陥ります
【実際にあったブラックな実態④】
面接で聞いていた内容と異なる労働条件を、入職直後に言い渡される。
– 岸田:「聞いていた話と違う」となったら、確かに揉めそうですね。
– 稲田:はい。一つの事務所を受けるのに、膨大な時間もお金も費やしますから。それで最後に「聞いていた内容と違う条件」を提示されたら、心にくるものはあると思います。
– 岸田:そうですよね。私だったら、その時点で辞めると思います。
– 稲田:問題はそこなんです。
この話だけ聞くと「辞めた方が良い」と思ってしまうのですが、そうはいかないのが問題なんです。
– 岸田:どういうことですか?面接と違う条件を提示されて、その内容に納得がいかないのなら、辞めてもいいのではないでしょうか?
– 稲田:「その事務所に入職を決めた」ということは、同時にその時点で「他の事務所の内定を蹴ってもいる」わけです。
エリアや年齢によっては、求職者さまの立場からすると他に選択肢があまり存在しないために「その事務所で働かざるを得ない」状況に追い込まれるケースがあるからです。
– 岸田:そういうことですか..採用側はそんなつもりはないとしても、求職者さまからしたら「足元を見られた」とショックを受けてしまわれる方も、絶対いらっしゃいますよね。
– 稲田:そう思います。このようなお話を聞くと、労働者をあまり大切にしないカルチャーが、まだ司法書士業界には残っているのかなぁと憂いてしまうことはあります。
【実際にあったブラックな実態⑤】本望でない労働条件を提示されても、受け入れざるを得ない状況が存在する。
– 岸田:この「入職したら、聞いていたら労働条件と違った」トラブルを防ぐにはどうしたらいいですか?
– 稲田:内定と同時に「労働条件通知書」を必ずもらうことです。労働条件通知書とは、事業主と労働者が雇用契約を結ぶ際に交付しなければならない書類です。
労働契約期間・始業および終業時刻・勤務時間・年収・業務範囲など、勤務に関する項目すべてがまとまっている書類を事務所さまから受け取りましょう。
– 岸田:労働条件通知書は「法律上、必ずもらわないといけない」と思いますが、この事実を知らない司法書士の方は結構いらっしゃるのでしょうか?
– 稲田:いらっしゃいます。なので、労働条件通知書の受け取りは徹底していただきたいです。
内定の提示とともに労働条件通知書を受け取ることで、その労働条件をもとに「内定を受諾するかどうか」を判断できるようになりますから。
– 岸田:稲田さんがよく、代表の先生に「労働条件通知書・雇用契約書を必ず作成してください」と伝えているのは、今お話されたような背景があるからなんですね。
【労働におけるトラブルの回避術】
内定が出たら、労働条件通知書を必ず受け取る。書面をチェックした上で、内定受諾の判断を行う。
– 稲田:求職者さまが労働条件に納得し、安心して働けるよう促すのが労働条件通知書なので、絶対に作っていただいています。
– 岸田:書類を作成していない事務所は「法律を違反している」と同意になるので、注意が必要ですね。
【注目】
雇用契約を結ぶ場合、雇用主は労働条件通知書の作成が法律で定められています。
– 稲田:そしてここからが求職者さまに強くお伝えしたい話になるのですが。
– 岸田:なんでしょう?
– 稲田:求人票に掲載されている情報や面接でのお話は、あくまで「参考情報」に過ぎない、ということです。
最終的に受け取る「雇用契約書」の内容が、正となる労働条件です。その前提を忘れてはなりません。私が担当させていただく求職者さまにも、必ずお伝えさせていただいています。
【労働契約通知書と雇用契約書の違い】
雇用契約書とは、定められた労働条件に対して雇用主と労働者の双方が合意したことを証明する書類。内容だけで見れば労働条件通知書と一緒です。
労働条件通知書は労働者が雇用主から「一方的に」受け取る書類であり、雇用契約書は「双方の合意を証明する書類」です。
– 岸田:どんなに求人票では魅力的に写っても、最終的に提示される労働条件が求人票の情報通りにはならない、ということですね。
– 岸田:労働条件通知書や雇用契約書の存在を知らない事務所さまは、割と存在するのでしょうか?
– 稲田:ちらちらあります。
以前、とある事務所さまに書類を作成していただきたい旨をお伝えしたら、「作るの面倒なので、なしで大丈夫です」と言われたことがあります。法律上、必要であることを理解していただき、作成をお願いしました。
– 岸田:気付いていただけてよかったですね…!
【実際にあったブラックな実態⑥】
労働条件通知書の作成が義務化されているが、その認知度は高くない。
– 稲田:昔、労働条件通知書の作成をお願いした事務所から上がってきた書面を見て、驚いたことがあって。「みなし残業:100時間」と書かれていたことがあったんですよね。
– 岸田:100時間ですか…
– 稲田:「こちら、”10時間”のお間違いでしょうか?」とおうかがいしたのですが、「いいえ、100時間です。」と…。
– 岸田:こういうとき、労働条件通知書の重要性を改めて知れますね。「みなし残業が100時間」であることを「入職後」に知ったら、絶対大きなトラブルになりそうですし…
ただ個人的には、もし自分が求職者の立場だったとしたら、「雇用契約書、ください!」って採用担当者に言えないような気がします。
– 稲田:なぜですか?
– 岸田:採用側に「面倒くさそうな応募者」と思われそうで、不安になります。
– 稲田:それでも必ず伝えた方がいいです。それでごねられれば、その事務所には入らない方が良いと思います。
– 岸田:逆にふるいにかけられる、ということですね。
実際にあったブラック体験談③パワハラの常態化
– 岸田:続いて、司法書士業界の「ハラスメント問題の実態」についておうかがいしたいです。「パワハラ」といったワードはもう、司法書士業界に限らずかなり話題に上がることが多いと思いますが。
– 稲田:耳にすることはよくあります。怒号が飛ぶとか、小突かれるとか、本が飛んでくるとか..細かいお話ならたくさんありますね。
– 岸田:やはりそういったパワハラは存在するのですね。
– 稲田:司法書士の先生からおうかがいした、一番驚いたエピソードだと「灰皿が飛んできた」というお話でした。
– 岸田:怖いですね…
– 稲田:一歩間違えれば傷害になるくらいのパワハラが、悲しいですが存在しています。
また他のお話では、パワハラが嫌で退職届を出したら「その場で破って捨てられた」司法書士の先生もいらっしゃいました。
– 岸田:入職前にパワハラ気質な事務所かどうかを判断するには、どうしたらいいのでしょうか?
– 稲田:とにかく、たくさんの情報を「多角的に集める」ことが大切です。同期に聞いてみるとか、転職エージェントに聞くとか、ネットで事務所名を検索してみるとか。
頑張って情報収集するしかありません。
– 岸田:転職エージェントなら、過去にその事務所で働いていた方の口コミも共有してもらえますよね。
– 稲田:そうですね。一般企業に応募する場合は、もはや応募前の口コミ・評判チェックは当たり前になってきていると思います。しかし司法書士はまだまだ情報が枯渇しているので、泥臭く情報収集していくのが大事です。
– 岸田:働きやすい職場に出会う可能性を少しでも高めるには、リサーチ活動が大切なんですね。
– 稲田:「情報」で思い出したのですが、「トイレが男女共同だった」というのを知らずに入職してしまった女性の司法書士の方もいらっしゃいました。
– 岸田:女性目線では確かに結構きついですね…もしこの情報を入職前に知っていたら、割と他の職場も検討された気がします。
– 稲田:情報はたくさん入手しても、しすぎることはないですね。
実際にあったブラック体験談④コンプライアンス違反による資格剥奪
– 岸田:SNSで、「あの事務所は補助者決済している」みたいな投稿を見たことがあります。そういった「コンプライアンス」に引っかかるようなお話を、稲田さんは聞いたことがありますか?
– 稲田:最近はあまりないですね。
数年前は「今の事務所はコンプライアンス違反をしているので転職をしたいです」と相談される司法書士の方は、たまにいらっしゃいました。
– 岸田:コンプライアンス違反とは、例えばどのような行為を指しますか?
– 稲田:だいたい、
- 補助者決済
- 非弁行為
- 不当なバックマージンの授受
の3つが多いです。あとは非弁行為に似たもので「他士業でなければ実施できない業務をを、司法書士が行ってしまう」など。
補助者決済とは:
不動産売買の代金決済の立会を、資格者ではなく無資格者の「司法書士補助者」が行うこと。
非弁行為とは:
弁護士が実施しなければならない行為を、弁護士資格を持たない者が実施すること。
バックマージンとは:
依頼された(依頼した)案件について、紹介料を授受を行うこと。
(司法書士倫理で禁止されています)
– 岸田:結構あるんですね。
– 稲田:特に「司法書士資格に傷がつく可能性がある」コンプライアンス違反に関しては、かなり注意が必要だと個人的に思っています。
例えば補助者決済。最悪の場合、資格停止という恐れもあるので。
– 岸田:資格停止ですか。絶対に避けなければならないですね。実際に停止されたケースを見たことはありますか?
– 稲田:ないですが、そういったトラブルに巻き込まれている方の相談を受けたことはあります。
とある司法書士法人の役員に就任したものの、補助者決済が慢性化していた職場だったために、あるとき内部告発によってそれが明るみに出てしまった。
【実際にあったブラックな実態⑦】
コンプライアンス違反による、司法書士資格の停止。
– 稲田:違反行為に対してあまり重く受け止めない・危機感がない空気のある事務所は危険だと思います。違反行為が公になった場合、実名がネットに公開されてしまうケースもあるので。
– 岸田:ちなみに、こういったコンプライアンス問題は「組織のトップや経営陣が傷付く」ものであって、勤務司法書士がペナルティを受けることはないですか?
– 稲田:勤務司法書士の立場で資格に傷がつくケースは、ほとんどありません。しかし告発や密告された場合に「違反していた事務所に所属していた人」として認識され、転職の際にマイナスイメージになってしまうことがあります。
なので資格停止や懲戒の恐れのある違反については、特に敏感になるべきだと思います。
– 岸田:なるほどですね。5年・10年かけてやっと取得した資格を紛失してしまったり、名前に傷ついてしまったりするリスクがあると。
– 稲田:はい。労基法やハラスメントは司法書士業界だけでなく一般企業でも起きうる問題ですが、今お話した内容は資格業の根本に関わる問題を孕んでいるので、特に気を付けていただきたいです。
ブラック事務所は今後「減っていく」。
ここからが一番聞きたいことなのですが、ブラックな司法書士事務所は今後も増えていくのでしょうか?
– 岸田:それはなぜですか?
– 稲田:司法書士事務所はだんだん「選ばれる」立場になってきているからです。
司法書士業界は、昔よりははるかに情報が増えてきています。つまり「求職者さまから見える情報が徐々に増えてきている」のです。
– 岸田:なるほど。昔は隠せた情報が、今は隠せなくなりつつあると。
それに伴い「見られ方」「見え方」を意識し始めた事務所さまも増えてきていそうですね。
– 稲田:そうです。あと、司法書士の働き方が変わってきているのも理由の一つです。
– 岸田:勤務司法書士のキャリアパスが変化してきている、ということですか?
– 稲田:はい。昔は独立するのが一般的でしたが、現在は勤務司法書士のキャリアを根ざすルートも増えてきている。
だから採用側も「どうすれば労働者は働きやすいか・勤務司法書士が定着してくれるか」をより真剣に考えるようになりました。
もともと人材難の面もある業界なので、「どうすればたくさんの司法書士が応募してくれるか」も考えるようになったと思います。求職者さまも、以前より格段に目が肥えてきていますから。
– 岸田:ここ数年でのネットの発達は著しいですから、悪い情報は隠しきれませんよね。採用側も危機感を持ち始め、労働環境の改善に踏み込み始めているという流れがあるわけですか。
働き方改革を実施する司法書士事務所の例
5年前までは「月末は終電まで絶対に働く」職場だったのに、現在は大分改善されたとか。残業代の支払いを導入してくれた事務所とか。
– 岸田:良い流れですね。
– 稲田:嬉しく感じています。社会全体が「求職者さまからどう見られているか」に敏感になってきている側面もあると思います。
– 岸田:職場改善をしている事務所さまが増えているのなら、そういった事務所さまをたくさん知らせていきたいですね。
– 稲田:はい。そのために我々が不定期で実施している「司法書士事務所インタビュー」などを通して、現役司法書士や受験生に対してどんどん事務所さまの様子を発信していこうと思っています!
ブラック事務所を避ける方法
– 稲田:まずは、リーガルジョブボードに登録することです。
– 岸田:(笑)
– 岸田:渾身の宣伝、炸裂しましたね。
– 稲田:まあでも実際、これは半分冗談・半分本気なんですが。
私が言いたいのは、「さまざまな情報チャネルを持つことが大事」だということです。同期、ネット、予備校の先輩、そして我々のような転職エージェント。
– 岸田:情報収集が大切だと、先ほどもお話がありましたね。
– 稲田:何度も言っているように、就活や転職活動は「情報が命」だと思っています。何も知らずに飛び込もうとすると、働きやすい環境にたどり着けるかどうかは「運要素」が高くなります。
だからこそ情報チャネルを複数持ち、情報を比較・精査しながら最適と思われる職場・キャリアを見出していただきたいです。
– 稲田:転職活動を今すぐするつもりがなくても、「キャリアで悩んでいる」「気になる事務所についてちょっと知りたい」といった「情報収集ベースのご相談」も喜んで承っているので、ぜひご相談していただきたいです。
– 岸田:稲田さんのような転職エージェントが担当につけば、今回お話いただいたような「ブラック事務所の避け方」も直接転職エージェントから教えてくれますし、私からしたら心強いと感じました。
一つの情報を鵜呑みしすぎない
– 稲田:そしてもう一つ大事なのが、「一つの情報を鵜呑みにしないこと」です。
例えば先ほどの「ブラック事務所リスト」のくだりでもお話しましたが、そこに書かれている断片的な情報だけを切り抜いてしまうのは、あまりおすすめしません。
– 岸田:そこに「情報の精査」も取り入れた方が良い、ということでしょうか。
– 稲田:はい。自分にとって本当に合わない事務所なのかどうか、自分の目や耳で実際に確認しに行くことが大切です。
– 岸田:最近、カジュアル面談や合同説明会といった「職場の雰囲気を知れる機会」が結構増えてきましたよね。
– 稲田:そうですね。弊社でも毎年、司法書士事務所の合同説明会をオフライン・オンラインともに実施させていただいているので、そういう場所にもぜひ足を運んでいただきたいです。
「働きやすい」職場は人それぞれ。
– 稲田:「代表先生の人柄が第一」と考える方もいれば、「教育に力を入れている事務所に入りたい」「放任主義・成果主義の自由な環境が良い」と捉えている方もいらっしゃいます。
「残業代をすべて出してくれるなら、どんなにギスギスしていても気にしない」という方だっていらっしゃいました。
– 岸田:自分にとっての「ホワイトな職場」の定義は人によって異なる、ということですか。
– 稲田:そうです。「ブラック」と言われる事務所があったとしても、実は一部の人にとっては働きやすい環境かもしれない。逆に「ホワイト」と呼ばれる事務所も、一部の人からしたら過酷な環境である可能性だってあるんです。
– 岸田:確かにそうですね。誰からも好かれる職場なんて、存在しないですよね。
– 稲田:はい。誰にとっても完璧な組織はありません。だからこそ、自分にとって働きやすい職場なのかどうかを、自分の目で・耳で直接探る必要があります。
– 岸田:減点方式で見ていくのではなく「職場選びで絶対に譲れない軸」を満たすかどうかという観点で、職場を吟味した方が良さそうですね。
現職や転職のご相談を毎日承っております。
ここまでご覧いただき、誠にありがとうございました。司法書士業界のブラックな実態や避け方について、我々の知る限りの情報を提供させていただきました。
ただ、本記事でお伝えし切れなかったことはまだまだたくさんございます。司法書士業界についてもっと詳しく知りたい方・失敗しない転職活動を行いたい方は、ぜひリーガルジョブボードまでお気軽にご相談ください。
転職やキャリアに関するご相談から、気になる求人・事務所に関する情報のご提供まで、担当アドバイザーが一貫したサポートを行います。
あわせて読みたい記事
▼リーガルジョブマガジンとは
司法書士の転職・キャリアに関するお役立ち情報や、業界知識・動向、インタビュー記事などを発信するメディアです。
記事一覧を見る
「司法書士業界はブラック事務所が多い」と言われる中、それが真実なのかどうか、さまざまな観点から聞いていきたいです。