司法書士の成年後見業務に対する報酬額や業務内容について解説
by LEGAL JOB BOARD 稲田
コンサルタント
- 担当職種:
こんにちは。司法書士の転職エージェント「リーガルジョブボード」の稲田です。
本記事では、司法書士の実務である「成年後見業務」について解説します。
成年後見業務を取り扱う司法書士事務所に転職した場合、どのような業務内容や働き方になるのか、具体的に解説しています。
本記事を読むことで、相続業務メインの司法書士事務所で実際に働くイメージがつきやすくなるはずです。
この記事の目次
「成年後見」とは?
現在増えている司法書士業務に、成年後見業務があります。業務について解説する前に、そもそも「成年後見とは何か」を説明しておきます。
成年後見制度とは、認知症・知的障害・精神障害などで判断能力がない方の財産を保護し、支援する支援者を選任する制度です。高齢化が進む現代において注目されている制度です。
司法書士は、法律的に他人の財産管理が可能であるという強みから、成年後見人になることができます。成年後見制度が一般的にそれほど根付いてない時期から、成年後見に多くの司法書士が携わってきたため、「成年後見の専門家=司法書士」というイメージができました。
成年後見制度は
- 法定後見制度
- 任意後見制度
の2つの制度からできています。それぞれについて説明します。
法定後見制度
法定後見制度とは「すでに判断能力が衰えており、財産の管理処分が自身では困難な人のための制度」です。生活や財産管理などをするため、家庭裁判所で下記を選任してもらいます。
- 後見人
- 保佐人
- 補助人
選任後、上記の支援者は、家庭裁判者などの監督下で支援を行います。
任意後見制度
任意後見制度とは「将来、財産管理などに不安がある方が、自身で判断能力があるうちに利用する制度」です。判断能力が衰える前に、あらかじめ将来の後見人候補者・支援内容を決めておくことができます。
支援内容を定めた契約を公正証書によって、後見人候補と結ぶことができます。
司法書士が行う「成年後見」の業務内容とは?
司法書士が行う成年後見業務は以下の通りです。実に多岐に渡っています。
- 成年後見登記
- 財産の調査
- 財産の管理(株式・有価証券など)
- 収入の把握
- 金融機関や各官庁への届け出
- 預貯金の入出金確認
- 必要経費の支払い
- 医療、介護サービスの契約や施設の入退所・処遇の監視
- 住居確保(不動産やその他生活に必要な契約)
- 家庭判所への報告
これらを司法書士が担当することになります。また、依頼者が亡くなった後も以下のような業務を行います。
- 財産目録作成
- 財産の引き渡し
- 成年後見終了登記
- 家庭裁判所への最終報告
時には親族同士のトラブルで案件が長引くなど、トラブルの対応に追われることもあります。
「成年後見」業務を行う司法書士の1日の流れ(例)
以下は、成年後見メインの司法書士事務所で働いた場合の、1日の流れ・タイムスケジュール例です。
【1日の流れ】
9:00 始業(メールのチェックや返信。アポイントの確認などをおこなう。)
10:00 財産調査で役所訪問
12:00 昼食
13:00 クライアント面談
16:00 依頼人の体調不良の連絡で病院へ
17:00 入院手続きや準備
20:00 退勤
色んな働き方のうち切り取ったほんの一例なので、本来ならもっと違った業務や流れも存在します。
成年後見メインの司法書士事務所の忙しさ
成年後見をメインとしている司法書士事務所は、忙しい印象です。
成年後見人として、成年後見登記や財産調査といった業務が一通り終われば、依頼者との面会は月に1回、2回程度(依頼者の状況によって増えることがあります。)がほとんどなので、さほど忙しくないイメージを持つ方がいます。
しかし、依頼者が体調を崩したときや亡くなったときは昼夜問わず駆け付けなければならない場面があり、なかなか思い通りに1日を終えることが難しいことも。
また、認知症や障害をお持ちの方、その家族を相手にすることが多いため、いろいろな方面で神経を使う大変さもあります。
成年後見に向いている人
成年後見に向いている人は
- 倫理観を失わず、誠実に対応できる人
- 自らの法律知識を活かして、社会的弱者を守りたいという使命感の強い人
です。
過去に、財産管理を続けている中で司法書士が「依頼人の預貯金に手を付けてしまった」という事例がありました。他人の財産を扱いますので、倫理観を持って対応できる人でないと成年後見人は務まりません。
成年後見業務は登記業務とは違って「個人とのコミュニケーション」がほとんどなので、より細かな関係構築が必要になります。そういう意味でも、誠実な対応ができる方や使命感を持っている方こそ務まる仕事だと思います。
成年後見業務のやりがい
成年後見のやりがいについて、司法書士から実際に聞いてみました。以下に記載します。
成年後見は継続的業務として位置付けられますので、ご本人及びご家族との関係性が深くなり、自ずと信頼されていくのを感じるところにやりがいを感じられると思います。
登記業務は、エンドユーザーに関して言えばその場限りの関係で、登記が完了したら基本それで終わりですが、 後見についてはお付き合いがずっと続くので、信頼関係が構築されていくのを感じられます。
中にはご本人に関与するのを一切拒否するような親族もいます。 最初は煙たがられたり、連絡が取れなかったりしますが、時間をかけて事情をお話しし続け、 数ヶ月後に打ち解けて、積極的に協力していただけるようになったときはやっていてよかったなと感じました。
また、役所・施設・病院・福祉・介護と一丸となりご本人を支えていくことの一体感は他の業務では味わえないと思います。
成年後見業務の難しいところ
続いて、成年後見業務の「難しいところ」についても、現役司法書士から実際に聞いてみました。以下に記載します。
成年後見業務の難しいところは「専門知識以外の知識が必要なところ」でしょう。 医療、福祉、年金など「普段扱わない分野」にも手を付けることになるので、予備知識がどうしても必要になってきます。
現場では専門用語が普通に飛び交いますので、理解できないうちは積極的に質問し、同時に自分で調べたりしていくことで、数ヶ月もすればある程度理解できるようになります。
また、被後見人は高齢者であることが多く入院中の方もいらっしゃいます。 入院中の場合、容態が急変することも珍しくなく、こちらの都合に関係なく突然様々な要求が入ります。
親族が非協力的だったり遠方にいる場合、病院・施設から真っ先に後見人に連絡が来ます。
実際にあったのが、日曜の21時に病院から本人危篤の連絡がありすぐに来てほしい、同時に親族に大至急連絡を取り、葬儀社の手配もしてほしいとのこと。月曜は朝から不動産の決済立会が入っていました。事務所に行かないと資料がない。その後親族、病院、葬儀社の対応…
このような場合、どうすることが正解なのでしょうか?
登記と異なり、誰がやっても同じ結果にならないことが後見の難しさです。被後見人のために最善を尽くすよう考え行動すること、答えは1つではないことを常に頭に置いて日々の業にあたることが肝要です。
成年後見の報酬面について
最後に、成年後見業務の報酬面についても、現役司法書士に詳しく聞きました。以下に記載します。
後見人に就任すると財産調査から始まり各種報告を上げ、各所へ連絡を取り…と、するべきことは山のようにあります。しかし後見人への報酬は年1回裁判所の審判を経た上での後払いです。
もちろん本人の財産や業務内容で報酬額は変わりますが、それでもあまり高いとは言えない金額です。月々の費用は本人の財産から支出するので大丈夫ですが、工数と比較しても1件あたりの報酬はあまり高いとはいえないでしょう。中には成年後見を数十件抱えている人もいますが、後見専門でやらないとその数はこなせません。
具体的な報酬額については、財産が1000万円程度の方で、特に難しい業務がなければ3万円/月くらいでしょうか。
自宅売却、訴訟、遺産分割等でご本人の財産を増やした場合は、別途付加報酬の申立てをし認められれば5-6万ほどかと思います。財産・付加報酬によりかなり上下しますが。
私が担当した件で、タイミングを見計らって株式を売却し、2000万円ほどの利益を出した方は、半年で40万円ほどの報酬金となったケースもありました。一般的には3〜5万円/月くらいと考えてよさそうです。
ただ報酬付与の審判が出ても、ご本人に払うだけの財産がないこともあります。その場合、市区町村等で報酬助成の制度がある場合もあるので、申請して役所から報酬をいただくパターンもあります。
後見業務としてはなかなか利益は出せないかもしれませんが、本人が亡くなった後の相続・遺産承継業務まで繋がるようですと、まとまった報酬を見込むことも可能です。
後見でご家族と信頼関係をしっかりと築いておけばその後の依頼もいただける確率は高いです。また、ご親族にも相続等の相談をいただくこともあり、後見経由で新たな依頼にもつなげやすいと思います。
後見をやると同時にその周りの方々に営業ができていることもメリットの1つでしょう。
成年後見は司法書士業界でのトレンド業務
高齢化の波により、成年後見は注目されている業務です。それもあって「成年後見業務をしたい」と転職相談に来られる求職者さまも多くいらっしゃいます。
しかし成年後見を請負っている事務所はあるものの、成年後見をメイン業務としている事務所は少ないのが現状。
また、いざ成年後見をメインとする事務所に就職したとき、生活に携わる契約や家の用事を代わりに行うことまでをイメージしておらず、入社後「自分には合わない」と感じてしまう人もいます。
成年後見業務をメインにしたいと考えている方は、上記のような事情を踏まえた上で、転職活動を進めていただけると幸いです!
成年後見業務が経験できる事務所を紹介
成年後見業務が経験できる司法書士事務所を紹介します。リンクからインタビュー記事がご覧いただけます。
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