インハウスローヤー(企業内弁護士)の仕事・役割とは?必要スキルや働き方も解説
by LEGAL JOB BOARD 増田
コンサルタント
- 担当職種:
こんにちは。弁護士専門の転職エージェント「リーガルジョブボード」の増田です。
本記事では、現役インハウスローヤー(企業内弁護士)の本間 星 弁護士監修のもと、以下のような内容を解説します。
インハウスローヤーに興味をお持ちの方は、ぜひ参考になさってください。
あわせて読みたい記事
この記事の目次
この記事の監修者
現役インハウスローヤー
本間 星 弁護士
インハウスローヤー(企業内弁護士)とは?
インハウスローヤーとは、企業に属して内部で法律関連の業務に携わる弁護士のことです。企業内弁護士や社内弁護士、組織内弁護士とも呼ばれます。
企業における契約関連の業務、ガバナンスやコンプライアンス関連の業務、株主総会などのコーポレート法務、法律関連の各種相談や助言などを担うのがインハウスローヤーです。
また近年では「企業内でビジネスに直接携われる」「ワークライフバランスが確保しやすい」といった理由で、インハウスローヤーに就職・転職する方が増加傾向にあります。
インハウスローヤーの仕事内容・役割
インハウスローヤーの主な仕事内容は、契約書等の作成・チェックや、ガバナンス体制・コンプライアンス体制の構築および運営、株主総会の対応、事業・契約スキーム構築、法律関連の各種相談・助言など。企業によっては、訴訟・紛争対応や省庁対応、労務管理、知的財産管理なども担当業務となります。
具体的な業務がなかなかイメージしづらい方に向け、例としてガバナンス体制・コンプライアンス体制の構築・運営について解説します。
ガバナンス体制関連では、取締役会や各種委員会の運営、規程等の作成・見直し、ベンチャー企業の場合は稟議システムの構築・運営などが、具体的な業務として想定されます。コンプライアンス体制関連では、内部通報制度の構築や窓口・調査機関としての対応、社内研修の実施、コンプライアンスチェックリストの作成などがあります。最近は特に個人情報保護への対応が重視されており、関連する経験を持つ法務人材の需要が高まっているようです。
インハウスローヤーの細かい業務範囲は企業によって異なりますが、主な業務や求められる能力・法知識は業界ごとに大体決まっています。
業界別の業務内容や求められる能力などは、日本組織内弁護士協会のページで非常に詳細に解説されています。
「インハウスローヤーへの転職を検討したい」「自分に最適な求人を選定して欲しい」といった方は、リーガルジョブボードの弁護士専門エージェントをご活用ください。
法律事務所と企業における弁護士の業務面での違い
法律事務所の弁護士であれば、事業に関する法的相談があった場合、法的リスクがあるか否かを回答して終了するケースも多いです。
一方でインハウスローヤーの場合、基本的に事業を実現する方向で法的相談・問題などを捉え、サポートしていかなくはなりません。そのため、仮に法的リスクがあるとして、「どうすれば該当事業を実現できるのか」「どうすればリスクを回避・軽減できるのか」という回答が求められます。
また、インハウスローヤーは企業に属するビジネスパーソンであり、事業の実現・成功のために法的観点からサポートを行う役割を担っています。業務上、ビジネス的思考力や社内外のステークホルダーへの配慮、社内での円滑なコミュニケーション力は欠かせません。
これらの違いは、転職時にギャップに感じる方が一定数いる反面、ビジネスに深くかかわることのできるインハウスローヤーならではの面白さでもあります。
インハウスローヤーは働きやすいのか
「ワークライフバランスを確保したい」は、インハウスローヤーを志望する理由としてよく聞かれます。
ここからは、実際のインハウスローヤーの勤務時間や休日出勤、ワークライフバランスに関するデータをもとに、働きやすさについて解説します。
インハウスローヤーの勤務時間
日本組織内弁護士協会が2024年3月に実施した調査によると、インハウスローヤーの1日の平均的な勤務時間は以下のとおりです。
1日の平均的な勤務時間は「8〜9時間」が最多で、全体の4分の3以上は「10時間未満」に該当。年間労働日数を240日(365日-125日)とすると、年間総労働時間は1,920〜2,400時間程度だと推定されます。
一方で2023年版の弁護士白書によると、弁護士の年間総労働時間は「2,001〜2,500時間」が最多、次いで「2,501〜3,000時間」が多く、インハウスローヤーの労働時間は比較的短いと言えるでしょう。
インハウスローヤーの休日勤務の実情
日本組織内弁護士協会の同調査によると、インハウスローヤーの休日勤務の状況は以下のようになっています。
土日祝日(または会社所定の休日)の勤務について、全体の約8割は「ほぼなし」と回答。基本的には休日出勤なしが一般的であることが伺えます。
インハウスローヤーのワークライフバランス満足度
日本弁護士連合会が2022年3月に発表した調査結果によると、インハウスローヤーのワークライフバランスに対する満足度は以下のとおりです。
ワークライフバランスについて「大変満足」「やや満足」との回答が全体の約8割を占めており、満足度は高い傾向にあることが伺えます。
ここまでの3つのデータを踏まえると、企業や個人によって例外的なケースはあれど、インハウスローヤーは概ね働きやすいと言えるでしょう。
「インハウスローヤーへの転職を検討したい」「自分に最適な求人を選定して欲しい」といった方は、リーガルジョブボードの弁護士専門エージェントをご活用ください。
あわせて読みたい記事
インハウスローヤーの年収
インハウスローヤーの平均年収は、700万円〜1,000万円程度です。
しかし詳細に言うと、平均年収は年齢や業界、実務経験年数などの要因によって変化します。詳しくは以下の記事をご覧ください。
あわせて読みたい記事
インハウスローヤーになるには?必要スキルや難易度
インハウスローヤーになる場合は、弁護士として企業に転職・就職することになります。
一般的に、インハウスローヤーへの転職難易度は、以下のような実務経験があるかによって異なります。
- 契約書作成
- 取締役会、株主総会の運営
- コンプライアンス法務、社内規定
- 事業承継法務
- 紛争対応法務
- 訴訟管理
なかでも、契約書の作成・チェックを一人で遂行できるかは、書類通過の第一関となる傾向にあります。
またインハウスローヤーを目指す場合、以下のようなスキルもあるとベターです。当てはまるスキルがある方は、選考時のアピールポイントとなるでしょう。
①コミュニケーション能力
インハウスローヤーは、特に社内でのコミュニケーションを円滑に行うスキルが必要です。
事業部等に対して法的サポートやアドバイスを行う立場となるため、ビジネスパーソンとしての配慮・気遣いが求められる場面も多いでしょう。
また事業スキーム構築に携わる場合や、各部署の問題や実現したい事柄に関する相談を受けた場合、会社にとっての最善策・実現方法を法的観点から共に考え、提案したり折衝したりするスキルも必要です。
②英語力(語学力)
企業によっては、業務において英語やその他の外国語を使用する可能性があります。
大手企業やメーカーほど国際的な業務が発生する傾向にあり、語学力が求められることが多いです。
参考までに、日本弁護士連合会が2022年3月に発表した企業内弁護士のキャリアに関する調査では、「今後のキャリアアップのために取り組みたい事項(複数選択)」として、約半数の人が「外国語」を選択しています。
③マネジメント能力
中規模以上の法務部を有する企業の場合や、マネジメントを行う立場になり得る年齢・経験年数の方の場合、マネジメント能力を求められるケースがあります。
インハウスローヤーも一般的な会社員と同様に、40代以降は「組織づくり」を求められる可能性が高いです。
参考までに、日本弁護士連合会が2022年3月に発表した企業内弁護士のキャリアに関する調査では、「今後のキャリアアップのために取り組みたい事項(複数選択)」として、約6割の人が「マネジメントスキル」を選択しています。
④スピーディーな対応力
インハウスローヤーは、しばしばスピーディーな対応を求められる傾向にあります。
法律事務所の弁護士はスピードよりも内容の正確性が重要視される印象ですが、インハウスローヤーはどちらかと言えば、内容の完成度よりもスピーディーな対応が重要視されたり評価につながったりするケースが多いでしょう。
「インハウスローヤーに転職できるか相談したい」「自分に最適な求人を選定して欲しい」といった方は、リーガルジョブボードの弁護士専門エージェントをご活用ください。
新卒でインハウスローヤーへの就職を検討している方は、こちらの記事をご覧ください。
あわせて読みたい記事
インハウスローヤーのキャリア形成について
インハウスローヤーとしてのキャリア形成ですが、現状は以下のような選択肢が一般的です。
- インハウスローヤーとしてキャリアを積む(他社への転職を含む)
- 法務部長などとして企業の法務機能を統制する
- 法務部門のトップ(CLO等)として経営に携わる
- 営業・人事・経営企画等の法務以外の部門でもキャリアを積む
- 法律事務所の弁護士に転身する
日本弁護士連合会が2022年3月に発表した企業内弁護士のキャリアに関する調査では、今後のキャリアイメージについて、「企業内弁護士としてキャリアを積む」との回答が約半数を占め最多でした。
一方で「法律事務所の弁護士に転身する」と回答した人は全体の5%ほどで、多くの方はインハウスローヤーとして働き続けることをイメージしていることがわかります。
インハウスローヤーに転職・就職する方は、ビジネスの現場で活躍・貢献することや、仕事と私生活をバランス良く両立することを望んでいる方が特に多い傾向にあります。
そのような背景もあり、企業法務弁護士としてキャリアアップやスキルアップを目指す方が多数派となっています。
あわせて読みたい記事
インハウスローヤーへの転職・就職活動のコツ
最後にインハウスローヤーへの転職・就職活動にあたり、押さえておきたいコツ・ポイントを紹介します。具体的には以下の3点です。
- 規模ごとに求められる人材の違いを把握する
- 業界ごとの求められるスキルを把握する
- 選考対策を徹底する
それぞれ詳しく解説します。
①規模ごとに求められる人材の違いを把握する
法務部や法務系チームの規模によって、求められる人材は異なります。採用情報・募集要項に十分に目を通し、先方が求める像を理解することが必要です。
小規模な法務組織の場合
一人法務など法務組織が小規模な場合には、組織が確立されていないことが多いです。
そのため常に積極的に業務に取り組みながら、法務組織の土台づくりができるような方が評価されやすい傾向にあります。
中規模な法務組織の場合(5〜10人程度)
中規模以上の法務組織を持つ企業は、上場しているケースが多いです。非上場であっても上場企業の子会社の場合、コンプライアンス重視となるでしょう。
そのため法的な観点からビジネスを検証し、法的リスクの提示・リスクヘッジやリスクコントロールの方法を提案できるスキルが求められます。
大規模な法務組織の場合(10人以上)
10人以上の規模となると、東証一部上場企業のような有名企業や、海外展開している企業が多いでしょう。人数に応じて、契約・渉外関係・法律相談などの業務ごとの分担制となっている可能性もあります。
そのため海外法務の経験者や、経営企画・労務関連など幅広い経験を持ち経営層に近いポジションで活躍できる方が歓迎されます。
②業界ごとの求められるスキルを把握する
インハウスローヤーの業務内容は業界によって異なるとお話ししましたが、求められる人材も業界によって傾向が異なります。一部の業界の例を紹介します。
製造業(メーカー)の場合
仕入れ・製造・販売など、各局面で異なるリスクが生じるため、的確な対応力が求められます。事業が国内で完結するケースはほぼなく、国際契約に関するスキルも必要でしょう。
また企業によっては、知財関連の知識や大組織を動かすコミュニケーション能力が必要になる場面があるかもしれません。
IT・ベンチャーの場合
新規事業案件が多い傾向にあるため、参考となる先例が少ない場合でも、コンプライアンスや法的リスクとビジネス面でのメリットを考慮し、最善の判断を下す思考力などが求められます。
また業界の特性上、スピード感を持って業務・決定ができる方や、扱っている商材に興味関心を持っている方が評価されやすいです。
金融業の場合
単に法務の知識だけではなく、金融規制法(金融商品取引法、銀行法、保険業法、信託業法等)の知識、理解・経験が求められます。
また新たなビジネスモデルやサービスが構築される中で、新たな問題にどのように対応していくか、法的思考力などが試される場面も増えていくでしょう。
③選考対策を徹底する
インハウスローヤーの採用選考に臨む際、志望動機や面接の対策を十分に行うことが重要です。
採用側は、複数人の弁護士からどの方を迎えるかを考えます。スキルで選びかねる場合、志望動機から人柄・企業への熱意を測ることも多々あります。
面接では、見た目の印象はもちろん、緊張せずに受け答えできるよう準備が必要です。
弁護士専門の転職エージェント「リーガルジョブボード」は、インハウスローヤーへの転職支援実績を多数有しています。
弁護士としてのキャリアにお悩みの方や、転職すべきか迷っている方、インハウスローヤーについて情報収集したい方など、ぜひお気軽にお問い合わせください。
あわせて読みたい記事
慶應義塾大学法科大学院を修了後、司法試験に合格(74期)。一般民事系の法律事務所で、訴訟対応や債権回収、契約書関連、家事事件、刑事事件、スクールロイヤーなど幅広い業務を経験したのち、インハウスローヤーに転向。