〈弁理士監修〉文系で弁理士になるのは厳しい?試験難易度や仕事内容を解説
by LEGAL JOB BOARD 正田
コンサルタント
- 担当職種:
こんにちは。弁理士・知財職種のキャリア支援を行う「リーガルジョブボード」の正田です。
本記事では、「文系で弁理士になる難易度、試験関連の情報、仕事内容・キャリアなど」を、文系出身でTMI総合法律事務所に勤務する小林奈央 弁理士に監修いただき、詳しく解説します。
文系で弁理士になることを検討している方や、文系弁理士の仕事内容などを知りたい方は、ぜひ参考になさってください。
この記事の目次
この記事の監修者
TMI総合法律事務所
小林奈央 弁理士
文系で弁理士になるのは厳しい?
理系資格のイメージが強いかもしれませんが、文系でも弁理士になることは可能です。
知財業界では、文系出身の弁理士は商標や意匠を専門とし、理系出身の弁理士は特許を専門とするのが一般的です。
出身系統(文系・理系)は、弁理士資格の取得や、弁理士としてのキャリア形成にどのような影響を与えるのか、本記事で詳しく解説します。
弁理士の出身系統(文系・理系)の内訳
まず、文系出身の弁理士はどれくらい存在しているのか、弁理士の登録状況と弁理士試験の合格者統計を参照してまとめました。
弁理士登録者のうち18%は文系出身
日本弁理士会によると、弁理士登録をしている会員のうち、18.4%が文系出身となっています。
2024年5月31日時点で、弁理士登録をしているのは11,857名で、そのうち2,179名が文系出身です。
弁理士試験合格者のうち文系出身の割合は?
弁理士試験の最終合格者のうち、例年15%ほどが文系出身です。
最終合格者数は例年180〜190名程度で推移しており、文系出身者は30名程度となっています。
弁理士登録者・弁理士試験合格者ともに、理系出身の割合が多いものの、文系出身も一定数いることがわかります。
文系出身で弁理士を目指すか迷っている方、弁理士に関する情報を収集したい方は、弁理士・知財専門キャリアアドバイザー「リーガルジョブボード」にご相談ください。情報収集・相談のみでご利用いただけます。
文系出身者の弁理士試験の合格率は?
直近5年の弁理士試験のデータをもとに、各試験の合格率を文系・理系で比較します。
※免除制度などの関係で、厳密な受験者数の算出が難しいため、志願者数と最終合格者数をもとに合格率を算出します。
実際の合格率とは多少の誤差がある可能性があるものの、理系の方が合格率がやや高い傾向にあります。
ただ、志願者数・合格者数ともに、理系が約7割で文系が約2割(その他が約1割)と、理系・文系の比率に大きな変化はありません。
弁理士試験で理系の方が有利になる要素を挙げるならば、論文式筆記試験の選択科目でしょう。詳しくは次章で解説します。
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弁理士試験は文系よりも理系が有利なのか
弁理士試験の内容や免除制度に触れながら、文系よりも理系の方が有利なのかを考察します。
論文式筆記試験の選択科目・免除制度について
弁理士試験は、短答式筆記試験、論文式筆記試験(必須科目・選択科目)、口述試験から構成されます。
論文式筆記試験の選択科目は、下記の6つであり、そのうち5つは理系向けです。
- 理工Ⅰ(機械・応用力学)
- 理工Ⅱ(数学・物理)
- 理工Ⅲ(化学)
- 理工Ⅳ(生物)
- 理工Ⅴ(情報)
- 法律(弁理士の業務に関する法律)
そのため、文系出身のほとんどの方は「法律」を選択することになります。法律の選択科目の選択問題は民法のみです。一方で、理系出身であれば、自身の得意とする科目を選択できます。
また、理系出身の受験生の中には、「修士・博士・専門職学位に基づく選択科目免除」の対象になる方が一定数いることも、理系の方が有利と言われる要因の一つでしょう。
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文系出身だと弁理士試験に不利なのか
「弁理士試験は文系出身だと不利なのでは?」と不安を抱く方もいるかと思います。
確かに、特許・実用新案などは理系の知識があった方が勉強しやすいという側面もあるかもしれませんが、意匠・商標を含むその他の分野は、特段そういったことはないでしょう。
弁理士試験の内容自体も、法律に関する知識を問うものであるため、法学部出身の方や知財関連の勉強をしたことがある方であれば、むしろ有利になる可能性もあります。
また、論文式筆記試験や実務においては、文章力が必須となるため、文系のバックグラウンドを活かすことができるでしょう。
文系出身で弁理士を目指すか迷っている方、弁理士に関する情報を収集したい方は、弁理士・知財専門キャリアアドバイザー「リーガルジョブボード」にご相談ください。情報収集・相談のみでご利用いただけます。
文系向け 弁理士試験の勉強方法
文系出身者が弁理士試験に挑戦する際には、次の勉強方法がおすすめです。
- 暗記科目に効率的に取り組む
過去問を活用して出題パターンを理解しながら知識を増やすなど、効果的に勉強する必要があります。 - 試験対策講座を利用する
予備校やオンライン講座、模試などを活用し、体系的に学ぶことで効率よく知識を吸収できます。
短答式・論文式ともに、合格基準に各科目の得点率も関係するため、苦手分野をできるだけ作らないよう勉強する必要があります。
また、文系・理系に関係なく、勉強時間の確保や効率的な勉強が重要です。弁理士を目指す多くの方は、予備校やオンライン講座、ゼミナールなどを活用しながら勉強しています。
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文系弁理士の仕事内容・キャリア形成
記事冒頭でもお伝えしましたが、知財業界では、文系出身の弁理士は商標や意匠を専門とし、理系出身の弁理士は特許を専門とするのが一般的です。
文系出身弁理士の仕事内容やキャリア形成について、詳しく解説します。
商標・意匠を専門とする弁理士になるのが一般的
文系の方が弁理士になった場合、商標・意匠を専門に扱うケースが一般的です。
この分野では、製品のデザインやロゴマークなど、視覚的・言語的な特徴を有する知的財産である商標や意匠を法的に保護するのが主な仕事です。権利化のための出願書類の作成や、模倣品対策、ライセンス契約のサポートなどを行います。
その他にも、知財争訟やブランドマネジメント、知財コンサルティング、知財調査・分析、税関手続などに携わることもあります。
特許に比べて、商標や意匠は身近な対象を取り扱うため、文系出身の方も活躍しやすい傾向にあります。また、弁理士業務には英語が必須のため、文系出身者は語学の得意な方が多いという点で有利と言えるでしょう。
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特許業務が文系には難しい理由
文系に対して、理系の方が弁理士になった場合、特許を専門に扱うケースが一般的です。
特許に関する業務では、化学や機械、電気、バイオなど、特定の技術分野に対する高度な知識・理解が求められます。
そのため、特許を専門とするほとんどの弁理士は理系の学部・大学院出身です。
文系で特許を専門とする弁理士を目指す場合、働きながら夜間・通信制の大学に通う、大学院に行きなおすなどして、理系の専門知識を習得する方法が考えられます。
文系弁理士のキャリア形成
商標・意匠を専門とする弁理士になった場合、主に以下のキャリアパスが考えられます。
- 特許事務所・法律事務所に勤務して経験を積み、ゆくゆくは事務所のマネジメントや経営にかかわる
- 独立して事務所を立ち上げる
- 企業の知財部・法務部などでインハウス弁理士として働く
どのようなキャリアを選択するとしても、弁理士として幅広い経験を積み、専門性・スキルを磨くことで市場価値が高められるでしょう。
また、文系・理系や専門分野に関係なく、弁理士資格者は知財業界で長く活躍しつづけるケースが多いです。
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文系弁理士の需要・就職難易度は?
文系出身で商標・意匠を専門とする弁理士は十分に需要があり、プロフェッショナル人材として必要とされています。
確かに、理系出身で特許を専門とする弁理士に比べ、ポジションが限られているので、全体的な求人数は少ないかもしれません。
しかし、特許事務所や企業知財部では、商標・意匠業務を担当する弁理士有資格者が求められており、常に一定数の求人が出されています。知財業界では弁理士資格者が重宝されるため、応募先に困ることはあまりないでしょう。
文系弁理士が市場価値を高めるには、幅広い業務に対応するスキルを身につけることや、英語力を高めて実務に活かすことが有効です。
まとめ
本記事のまとめは以下のとおりです。
- 文系でも資格を取得して弁理士として働くことができる。文系出身の弁理士は商標や意匠を専門とし、理系出身の弁理士は特許を専門とするのが一般的。
- 弁理士試験の志願者数・合格者数ともに、理系が約7割で文系が約2割(その他が約1割)と、理系・文系の比率に大きな変化はない。
- 文系出身で商標・意匠を専門とする弁理士は十分に需要があり、常に一定数の求人が出されている。
弁理士や知財の仕事に興味をお持ちの方、転職を検討している方で、
- 弁理士や知財業界の仕事について知りたい
- キャリアチェンジした場合の年収目安を知りたい
- 弁理士や知財職種の適性があるか知りたい
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参考文献
- 特許庁
・商標制度の概要
・意匠制度の概要
・過去の試験統計
・令和6年度弁理士試験最終合格者統計
・弁理士試験の具体的実施方法について - 日本弁理士会
・日本弁理士会会員の分布状況(2024年5月31日時点)
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