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企業知財部から特許事務所へ戻った理由 (1)

弁理士が転職で後悔しないために。企業知財部から特許事務所へ戻った理由

by LEGAL JOB BOARD 山﨑雅彦

エグゼクティブアドバイザー

担当職種:
  • 弁護士
  • 法務
企業知財部から特許事務所へ戻った理由 (1)

こんにちは。
弁理士・知財職種のキャリア支援を行う「リーガルジョブボード」の山﨑です。

弁理士業界において、特許事務所から企業の知的財産部への転職に関心が高まる一方で、「一度外に出たら事務所には戻れないのでは?」「専門性が鈍るのでは?」という不安の声も聞かれます。
果たして、企業知財部を経験した弁理士が、再び特許事務所で活躍することはできるのでしょうか。

今回は、特許事務所から大手メーカーの企業知財部へと転身し、現在は再び特許事務所(TMI総合法律事務所)にて第一線で活躍されている谷樹弁理士にお話を伺いました。

出願業務の実態から、企業知財部勤務時のご経験、そして「キャリア設計」のヒントまで、多様なテーマについて語っていただきましたので、ぜひご覧ください。

徹夜のSE時代から弁理士へ。企業に惹かれた理由とは

LEGAL JOB BOARD 山﨑:
本日はお忙しい中、ありがとうございます。

今回のテーマは、「弁理士が後悔のない転職をするために押さえておきたい、特許事務所と企業知財部という2つのフィールドをまたぐキャリアについて」です。

まずは谷先生のこれまでのご経歴から教えていただけますでしょうか。

谷先生:
新卒で大手電機メーカー系列のシステム会社にシステムエンジニア(SE)として就職し、銀行のシステム開発などを約7年間担当しました。
その後、未経験で中堅特許事務所に転職し、そこで弁理士資格を取得して4年半ほど勤務しました。
さらに、大手家電メーカーの知財部に転職して3年半勤め、再び小規模な特許事務所で5年半勤務したのち、現在のTMI総合法律事務所に来て今年で6年になります。

谷先生_キャリア年表

LEGAL JOB BOARD 山﨑:
SEとして勤務された後、特許事務所という異業種への転職は大きな決断だったと思います。
どのようなきっかけがあったのでしょうか?

谷先生:
一番の動機は、当時のSEの仕事が時折徹夜も発生するなど体力的にハードだったため、働き方を根本から見直したいという思いでした。

しかし、単に環境を変えるだけでは状況は改善しないと考え、これまでの技術的バックグラウンドを活かしつつ、SEとは全く異なる環境に身を置くことを決意しました。

他の業界を模索する中で、以前から関心のあった特許業界が自身の希望に合致していると感じ、在職中から弁理士の勉強を開始しました。

業界未経験でも採用を検討してくれる事務所を探し、思い切ってキャリアを転換いたしました。

LEGAL JOB BOARD 山﨑:
そこからさらに、企業の知財部へ転職されています。
こちらの背景は何だったのでしょうか?

谷先生:
最初の特許事務所では電気やソフトウェア分野の案件を主に担当し、さらに、クライアントである大手電機メーカーの知財部に駐在する形での業務も経験しました。 

企業の知財部の業務により近い距離で触れる機会に恵まれたことで、企業側での働き方に興味を持つようになりました。

LEGAL JOB BOARD 山﨑:
駐在という形で企業の内側を間近で見たことが、大きな転機になったのですね。
その後のご転職の流れについても教えていただけますか?

谷先生:
企業知財部での経験を経た後、そこで得た知見やスキルを特定の企業内にとどめるのではなく、より幅広いクライアントに提供したいという思いが強くなり、再び特許事務所へと戻りました。
現在はTMI総合法律事務所に来て今年で約6年になります。

LEGAL JOB BOARD 山﨑:
最終的には特許事務所に戻られたのですね。
数ある特許事務所の中からTMI総合法律事務所様を選ばれたご理由や決め手はどのような点だったのでしょうか。

谷先生:
TMI総合法律事務所を選んだ理由の一つは、弁護士と協業しながら、企業寄りの仕事にも関われる環境に魅力を感じたことです。

また、これまで特許事務所や企業知財部で培ってきた経験や視点も活かしながら働けるのではないかと感じたことに加え、多様なバックグラウンドを持つ専門家がいる環境や、相談しながら仕事を進められそうな雰囲気にも惹かれ、最終的にTMI総合法律事務所を選びました。

発明から権利の活用まで。企業知財部の業務の幅広さ

LEGAL JOB BOARD 山﨑:
実際に企業の中に入ってみて、想像とのギャップはありましたか?

谷先生:
想像していた以上に業務範囲が広く、良い意味でとても驚きました。
特許事務所にいると「明細書を書いて出願し、権利化する」という一連の流れがメインになります。

一方、企業では、出願前の調査や発明者との議論、まだ固まり切っていないアイデアを整理していく業務に加え、社内の技術職向け特許教育やライセンス交渉における技術検討、外部との調整など、出願業務の前後を含めてさまざまな役割があります。
持ち込まれたアイデアがそのまま全て出願に進むわけではなく、内容を見極めながら出願レベルまで整理していく場面も多く、その点も企業知財部ならではだと感じました。

LEGAL JOB BOARD 山﨑:
事務所時代には見えなかった業務ですね。
そうした企業知財部ならではの環境において、特にやりがいを感じた業務は何でしたか?

谷先生:
「ライセンス交渉」は事務所ではなかなか経験できない業務なので、面白かったです。

当時はパテントトロール(特許を多数保有しライセンス料を要求する組織)も多くなっていた時代で、在籍していた企業にもそのような組織が現れました。
その際、実際に製品を開発している技術者から対象製品の技術的な内容について説明を受けながら、知財部として特許の解釈を技術者に説明します。
こうして双方の知見をすり合わせ、対象特許に対する技術的な見立てや対応方針を整理したうえで、相手方と直接やり取りをする。

これは事務所では経験できないことでした。

クライアントになって気づいた「頼れる弁理士」の特徴

LEGAL JOB BOARD 山﨑:
企業に在籍していた際、外部の特許事務所に仕事を依頼するクライアントの立場を経験されたと思います。
企業側から見て、「頼りになる弁理士」の共通点は何でしたか?

谷先生:
一言で言えば「丁寧さ」です。
私自身が明細書を書いていたからこそ、上がってきた成果物を見れば、丁寧にやってくれているか、そうでないかは感覚的に分かります。
この点、明細書を自分で書いた経験があると、成果物の細かな質まで判断しやすいと感じました。

現在、自分で明細書を書く際にも、その「丁寧さ」は強く意識しています。

ここでいう丁寧さとは、単に文章を細かく書くということではなく、技術内容をどのように文章へ落とし込み、読み手にとって分かりやすい形に整えるか、ということです。
例えば、前提となる事情や理由を補っておいた方が理解しやすい箇所はないか、一度書いた内容を見直したときに説明が粗くなっていないか、といった点まで気を配るようにしています。

企業側で成果物を受け取る立場を経験したことで、こうした一つひとつの記載が、読み手の安心感や理解のしやすさにつながることをより実感しました。
そのため今は、権利範囲だけでなく、説明の分かりやすさや納得感まで含めて、丁寧に仕上げることを心がけています。

LEGAL JOB BOARD 山﨑:
なるほど、読み手にとっての分かりやすさや納得感まで含めて「丁寧さ」なのですね。
そうした違いを見極められるのは、実際に明細書を書いてきたご経験があるからこそだと感じました。
企業知財部では、そうした観点を踏まえて事務所の評価に関わることもあったのでしょうか?

谷先生:
はい。
ちょうどその頃、知財部内でも事務所を客観的に評価するための基準を検討していた時期で、私の意見も取り入れていただきました。
事務所で明細書を書いていた経験があったからこそ、成果物の細かな質や対応の違いについて実務的な観点から意見を求めていただくことが多く、その点は重宝していただきました。

再選択の決断ー事務所に戻ることを選んだ理由

LEGAL JOB BOARD 山﨑:
事務所では決して味わえない、それほどの面白さややりがいを感じていらっしゃったにもかかわらず、再び特許事務所へ戻るという選択をされています。
どのような背景があったのでしょうか?

谷先生_キャリア年表

谷先生:
「企業での経験を通じて得たスキルを、特定の企業内にとどまらず幅広いクライアントに提供したい」という想いがありました。
というのも、企業にいる限り、得られたノウハウを「自分で明細書を書く」業務に直接活かせる場面は、どうしても限られてくるからです。

また、長く明細書を書いていないと「書けなくなってしまうのではないか」という不安もありました。

LEGAL JOB BOARD 山﨑:
企業で得た経験を、より広い形で還元していきたいという思いがあったのですね。
転職活動時の事務所からの評価については、いかがでしたか?

谷先生:
事務所側からも非常に好意的に受け入れられました。
企業で幅広い業務に携わっていたこともあり、事務所では、さまざまな仕事に対応できる人材という意味で評価していただけたと思います。
加えて、企業側の考え方を知る人材としても、プラスに受け入れられたと感じています。

企業知財経験は特許事務所で活かせる?戻れる人の条件とは

LEGAL JOB BOARD 山﨑:
企業での経験は、特許事務所での業務にも影響を与えたのでしょうか?

谷先生:
明細書を作成するうえで、ライセンス交渉の経験は一つの学びになったと思います。

もともと、交渉相手や他社に付け入る隙を与えないような表現は意識していましたが、実際にライセンス交渉の場面を経験したことで、文言がどう受け取られるのか、どのような表現が後々問題になり得るのかを、より具体的に考えられるようになりました
そうした経験を通じて、明細書を書く際の視点が補強された実感はあります。

LEGAL JOB BOARD 山﨑:
なるほど。もともと意識されていたポイントに、実際のライセンス交渉のご経験を通じて、より具体的な視点が加わったのですね。
企業でのご経験を経て、再び特許事務所に戻られた現在、クライアントとの接し方に変化はありましたか?

谷先生:
一番の変化は、クライアントである企業の知財担当者が抱える苦労が、肌感覚で分かるようになったことですね(笑)。

確かに、「年間の出願ノルマがあるため、年度末までにあと何件か出願しないといけない」、「展示会に出展するため今月中に出願を済ませないといけない」といったことは、企業に入らなくても外部からある程度は想像がつきます。

ただ、その裏で知財担当者が社内でどれほど調整に奔走しているかというリアルな空気感は、やはり内部での実体験があるからこそ、より深く理解できるのかなと思います。

実際に企業の方からは、「こちらの事情を踏まえて柔軟に対応してもらえるので助かります」といった言葉をいただくこともありました。
企業知財部での経験があったからこそ、相手の置かれた状況や優先順位をより具体的にイメージしながら対応できるようになり、その点は今のクライアント対応にも活きていると感じます。

LEGAL JOB BOARD 山﨑:
企業側の事情を肌で知っているというのは、クライアントとの信頼関係構築において大きな強みになりそうですね!
では、企業知財部を経験した方が特許事務所に戻るうえで、分かれ目になるのはどのような点でしょうか?

谷先生:
分かれ目があるとすれば、まずは特許事務所の根幹の業務である明細書が書けるかどうかだと思います。

もっとも、特許事務所の仕事は明細書作成だけではありません

実際には、企業からは出願前段階の整理や社内の技術職向け特許教育、権利活用の場面など、明細書作成以外のサポートを求められることもあります。
そのため、クライアントである企業に寄り添い、企業が求める価値を提供できるかどうかも重要になるのではないでしょうか。

両方経験して再認識した、特許事務所の魅力とは?

LEGAL JOB BOARD 山﨑:
企業知財部と特許事務所の両方を経験された谷先生から見て、改めて感じる特許事務所の魅力とは、どのような点にあるのでしょうか?

谷先生:
特許事務所の魅力は、弁理士としての専門性を深めながらも、選び方次第で非常に幅広い仕事に関われることだと思います。
企業寄りの案件や権利活用に近い仕事に携わることもできますし、専門性を軸にしながらキャリアの広がりを持てる点は、改めて大きな魅力だと感じています。

時々、「特許事務所は明細書を書くだけなのでは」と思われることもありますが、実際はそれだけではありません。
もし事務所の仕事が明細書を書いて権利化するだけであれば、企業での経験を活かせる場面も限られますし、そもそも私自身、事務所に戻ろうとは思わなかったかもしれません。
そうした意味でも、特許事務所には、専門性を深めることと、より広い実務に触れることの両方ができる面白さがあると思います。

LEGAL JOB BOARD 山﨑:
なるほど。
専門性を突き詰めるだけでなく、その先の仕事の広がりまで見据えられるのが特許事務所の魅力なのですね。

その中でも、谷先生が現在所属されているTMI総合法律事務所ならではの魅力を特に感じるのは、どのような点でしょうか?

谷先生:
TMI総合法律事務所の魅力の一つは、仕事の選択肢の幅が広く、自分の志向に応じて挑戦しやすい環境があることだと思います。

たとえば、出願業務に軸足を置いて専門性を高めていきたい方もいれば、活用寄りの案件に関わりたい方もいると思いますが、そうした希望を叶えて働ける環境があります。

また、ニュースになるような特許訴訟や裁判例に実際に関わっている先生方が近くにいるので、第一線の案件を身近に感じながら仕事ができるのも、大手事務所ならではの面白さだと思います。

加えて、多様な経験を持つ弁護士や弁理士が在籍しているので、困ったときに相談しやすく、そこから得られる刺激も大きいですね。

LEGAL JOB BOARD 山﨑:
確かに、第一線の案件を身近に感じられることや、多様な専門家から刺激を受けられることは、TMI総合法律事務所ならではの魅力ですね。
働く環境や事務所の雰囲気という点では、いかがでしょうか?

谷先生:
弁理士は一般的に職人気質なところがあると思いますし、実際に黙々と作業する場面も多いです。
ただ、TMI総合法律事務所のメンバーは、穏やかな方が多い印象がありますし、一人で粛々と仕事をするというより、必要に応じて周囲と相談しながら進めやすい環境があると感じています。

また、年に一度の事務所旅行や年末のパーティーのように、普段あまり接点のないメンバーとも交流できる機会があります。
そうした場では、弁護士や他部門、スタッフの方々とも自然に話すことができます。
日常の業務とは違った形で、事務所全体のつながりを感じられるのも魅力の一つだと思います。

さらに、大手事務所でありながら、ある程度裁量を持って仕事を進めやすく、働き方についても個人の事情を汲んでもらいやすい印象があります。
長くキャリアを築いていくうえで、こうした自由度や柔軟さがあるのは大きいのではないでしょうか。

LEGAL JOB BOARD 山﨑:
業務の広がりだけでなく、相談しやすさや交流の機会、働き方の柔軟さも含めて、長くキャリアを築きやすい環境なのですね。
企業知財部と特許事務所の両方を経験された谷先生から見て、これからキャリアを考える弁理士の方は、どのような視点で転職先を選ぶとよいのでしょうか?

谷先生:
前提として、企業の知財部に入り、当事者として自社のビジネスや開発の最前線を内側から支え抜くことも、特許事務所で高い専門性を武器に多様な案件に挑み続けることも、どちらも等しく素晴らしいキャリアです。

そのうえで、年齢や固定観念にとらわれすぎず、ご自身が「どういう環境で力を発揮したいか」という視点で、フラットに選んでいただくのがよいと思います。

特許事務所の中にも、明細書作成や権利化を中心に専門性を深められる環境もあれば、TMI総合法律事務所のように、より幅広い経験や働き方の選択肢を持てる環境もあります。
ですので、「事務所か企業か」という二択で考えるのではなく、ご自身に合ったフィールドや働き方を見極めることが大切だと思います。

LEGAL JOB BOARD 山﨑:
まさに、企業知財部と特許事務所の両方を経験された谷先生だからこそ、それぞれのキャリアの魅力がより立体的に伝わるお話だったと感じました。
本日は貴重なお話をいただき、誠にありがとうございました。

【TMI総合法律事務所について】
TMI総合法律事務所では、弁理士としての高い専門性を活かしながら、弁護士と協業し、権利化にとどまらない幅広い知財実務に携われる環境があります。
加えて、多様なバックグラウンドを持つ専門家と連携できること、個人の事情に配慮した柔軟な働き方がしやすいこと、長期的にキャリアを築きやすいことも魅力です。
長く在籍しながら専門性を高めている方も多く、腰を据えてキャリアを築きたい方に適した環境です。

編集後記

LEGAL JOB BOARD 山﨑 雅彦

企業知財部での経験が、特許事務所に戻った際の大きな強みになる。そして、キャリアは決して一方通行ではなく、経験次第でいつでも選び直せる。「事務所か企業か」という選択に唯一の正解はありませんが、どちらの世界も経験したからこそ見える景色がある——そのことを、谷先生のキャリアが体現されていると感じました。

この記事の執筆者

LEGAL JOB BOARD 山﨑雅彦

エグゼクティブアドバイザー

担当職種:
  • 弁護士
  • 法務

法科大学院を修了後、リーガルマーケットの拡大発展に寄与したいとの想いから、管理部門および士業に特化した人材紹介会社に入社。法務知財領域のプロジェクトリーダー兼コンサルタントとして、弁護士や法務職を対象に豊富な支援実績を有する。 その後、2020年11月よりエグゼクティブ層の転職に強みを持つ人材紹介会社に参画。法務知財領域専任のコンサルタントとして、中長期的なキャリア支援を行う。 2024年6月からLEGAL JOB BOARDを運営する株式会社WILLCOにエグゼクティブアドバイザーとして参画。

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