
“AIで仕事は楽にならない”「AI時代のリーガル業務改革」セミナー開催レポート

by LEGAL JOB BOARD 三島善太
キャリアアドバイザー
- 担当職種:

LEGAL JOB BOARDでは、2025年5月29日(木)に法務・知財セミナー【「AI時代のリーガル業務改革」法務・知財に求められる新スキルとは?】を開催しました。
本記事では、セミナーを振り返り、AI×法務・知財領域の動向やご参加いただいた皆さまの声などをお届けします。
セミナー詳細
本セミナーは、リーガルテック株式会社COO平井智之氏にご登壇いただき、【AI×法務・知財業務】をテーマにお届けしました。
- リーガル領域におけるAI活用の最新動向
- 生成AIがもたらす法務・知財領域に求められるスキル変革
- セキリュティ等のリスク対応 など
これらのトピックを、法務・知財領域でご活躍されている皆さまとQ&Aを交えながら深掘りしました。

リーガルテック株式会社
取締役COO
平井 智之氏
2018年立教大学大学院法務研究科修了後リーガルテック株式会社に入社。
法務部、第三者委員会や米国民事訴訟(eディスカバリ)関連事業を経て、子会社Tokkyo.Ai株式会社の取締役に就任。現在はCOOとして特許AIツールの開発・マーケティング等事業全体をディレクション。
セミナー内容の一部抜粋
ここからは、実際にセミナーで平井氏より展開された内容から、特に注目すべきトピックの一部を抜粋しご紹介いたします。
トピック1:生成AIによるゲームチェンジが起きている
以下平井氏
生成AIの市場規模は急拡大しており、その拡大スピードは年々勢いを増しています。(年平均成長率(CAGRは約33.2%)
市場成長のスピードは、クラウドやサイバーセキュリティ市場と同等、もしくはそれ以上の速さであり、我々が強みとする法務・知財領域でも無視できないものになってきています。

一言で言うと、「革命」です。
革命が起きると、トランプの大富豪のようにゲームルールが変わります。
つまり、若手であろうと業界経験が少なかろうと、AIの知見さえあれば大チャンスの時代なのです。
過去のIT革命時もそうであったように、こうした時代においては、いち早くその環境に適応し使いこなす人が評価され、さらに社会的な価値を生み出していくような仕組みが基本形です。
AIをどう活用するか、どうAIを取り入れて業務を設計するか、そういった部分が「仕事の価値」として見られるようになるのではと思っています。
トピック2:AIを使いこなし、整えられる人材が求められる
以下平井氏
今後は、法務・知財領域においてもAIを“使う力”と“整える力”を持つ人材が求められるようになります。
以下は国内の企業に対し、生成AIの利用実態を調査したアンケート結果です。

chatGPTが2022年11月に公開され、そこから1年後の2023年時点では生成AI活用をしている企業は30%程度でした。しかし2024年には生成AI活用に取り組んでいる企業が50%に上っており、2025年には半数以上の企業が活用していることが予測できます。
さらに実際に生成AIを活用している企業のうち55%が何かしらの効果を感じられたと回答しています。

生成AI活用に取り組む企業が右肩上がりで増えていること、そして各社が生成AIにより享受している効果を鑑みるに、「生成AI活用の推進」と「生成AI活用による企業課題の解決」に強みを持つ人材の需要が高まることは容易に想像ができます。
また企業によって生成AIの活用方法は様々ですが、AIが解決する課題は主に3つに分類されます。
①人手不足
②コスト増
③品質のばらつき
これらの課題を、生成AIを正しく使いこなし、そして各社の特色や課題を反映し業務の一部として使用するまでに整えられる力が、今後の法務知財人材に求められるでしょう。
大前提として、生成AIを使っても仕事は楽になりません。
「人がこなす」から「生成AIを使う」へと、求められるスキルが変わっただけです。
かつて人に求められていた価値と、今後求められることを比較するとこのようになります。

トピック3:生成AI導入に潜む“見落とせない2つのリスク”
以下平井氏
法務の方に必ず知っておいていただきたい、生成AI導入時のリスクは2つ。
- ベンダーロックイン
- シャドウAI
生成AI活用に関しては、著作権等の様々な権利侵害の問題が世の中で叫ばれていますが、企業目線で言うとこの2点をどう考えるかについて法務の方が先導して解決していただきたいと思っています。
①ベンダーロックイン
特定AIのベンダーのAI基盤に依存することによって、モデル変更により業務が崩壊したり、再現性が乏しい点が問題になる可能性が高いと考えています。
また使用ベンダー側で大幅にコスト(料金)変更された場合にも、代替できないため使い続けるしかないという点も課題になるでしょう。
解決の一例として、AIベンダーとユーザーの間にAI出力の調整ができるツールベンダーを挟むことが策として挙げられます。その時点における最適なAIを選定することができ、学習しないことを前提としたセキュリティ担保をしてくれるメリットもあります。

②シャドウAI
シャドウAIとは、企業・組織が許可していない生成AIツールを個人のアカウントを利用して業務に使用してしまうことです。
機密保持の観点で大きなリスクがあり、またログも残らないため気付きづらく、気付いた後の対応もできない状況に陥ります。
兼ねてよりシャドウITと呼ばれる同様の問題は蔓延しており、例えば個人のメッセージツールを使用して業務に関する情報をやり取りしてしまうことなども多く、根本的な解決は難しい側面もあります。
私の経験則上、「生成AIツールの使用が禁止されている企業・組織」であるほど起こり得るため、社内で「使っていい生成AI環境がある」というだけで、個人のツールを勝手に使われるリスクは一気に減らせます。
ツール導入するだけではなく、「どのツールであれば使用して良いか・どんな情報は入力禁止なのか・入力・出力のログをどう残すか」などの体制・ルール整備を同時に行うことが重要かと考えています。
セミナー参加者の開催後アンケート(一部抜粋)
特に良かった点
- 知識ゼロでも理解できるよう、生成AIの基本概念や活用範囲が分かりやすく整理されていた点
- 知財業務における具体的な適用事例(特許明細書作成、先行技術調査など)
- 今後求められるスキル(指示力・確認力)や、AIとの適切な役割分担に関する解説
- 実際のツール紹介(TokkyoAI、ChatTokkyo)と活用可能性
- セキュリティやベンダーロックインなどの現実的リスクの説明
印象に残ったトピック
- 「仕事は楽にならないが、仕事の内容が変わる」
- 「生成AI導入はプライベートから始めるべき」
- 「AIと人の切り分け、指示力・確認力がカギ」
- 「社内DBと連携した生成AI活用」
総評
今回のセミナーでは、リーガルテック株式会社 平井氏に登壇いただき、生成AIを法務・知財業務にどう活用できるか、具体的な事例や考え方をお話しいただきました。
アンケートや質疑応答を通じて、参加者の多くが「生成AIへの関心は高いが、実務でどう使えばよいか分からない」「セキュリティや業務の線引きが不安」と感じていることが明らかになりました。
今回のセミナーは、生成AIが業務にどう影響するのか、そして実際の現場で働かれる皆様として、今後どのように備えるべきかを考えるきっかけとなりました。
今後も、生成AIと実務をつなぐ場を継続的に提供していきます。
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